PERSONS #1[普及指導員・研究員]

新ブランド米の開発と
平成30年デビューまでの道

平成30年秋デビューする県産米の新品種「富富富(ふふふ)」。
食べた後に思わず「ふふふ」と微笑んでしまうような、
新しいおいしさに出会える日は近い。このシリーズでは3回にわたって、
各分野で「富富富」のデビューに懸ける人々の思いを聞く。

富富富(ふふふ)は今

平成30年秋のデビューに期待を膨らませる中、県内では、土壌条件の異なる23ヵ所(7.6ヘクタール)の水田で、「富富富」の試験栽培が行われている。
この日訪ねたのは、富山市吉岡の富山県農林水産総合技術センター。センター内の農業研究所では、栽培課、土壌・環境保全課、病理昆虫課などが連携し、この新しいブランド米を、高品質かつ安定的に生産するために、日々、データ収集や実証研究を続けている。

高温に負けず、倒れにくい特性

そもそも、新品種の開発に着手したのは、急激に進んだ地球温暖化が背景にある。高温障害によってお米が白く濁る“白未熟粒”が多発し、台風や大雨などでの倒伏により収量が減る懸念があることから、異常気象に耐えうる、より強いお米が求められるようになったのだ。
開発は、農業研究所の育種課で平成15年からスタート。お米が実る時期に高温でも高品質なお米となる遺伝子の検索・特定から始まった。平成24年〜25年度に交配し、平成26年度からは(1)高温に強い、(2)草丈が短く倒伏しにくい、(3)“いもち病”に強い、という3つの特性を合わせもつ約3,000個体から3つの候補に絞り込み、今年の2月、最も優秀な1系統「富山86号」が選ばれ、3月に名称を「富富富」に決定した。

〝いもち病〟に強く農薬を減らせる魅力も

写真上/高温下における品質比較。富富富は粒ぞろいが良く、夏が高温でも、コシヒカリより白く濁りにくいことが分かる。
写真左/収穫する頃の富富富の丈は、コシヒカリに比べて短いことが明らかだ。

栽培課・副主幹研究員の野村さんによると、低温や日照不足の年に大きな被害が出ることがある“いもち病”への抵抗力が強いことから、農薬使用量の節減に繋がるのだという。食味と収量を保ちながら(図1参照)、農薬や化学肥料の使用回数、量を減らすことができれば、環境に優しく、安心・安全なお米としてイメージアップも図れる。
おいしいお米づくりに長く奮闘してきた広域普及指導センターの髙橋さんは、こう語る。「開発がゴールではありません。作ってみたいと興味をもってくださる農家の方が、地域の栽培条件に応じて、優れた品質のお米を作り続けられることが重要です。そのために、稲に与える肥料の量や、散布の時期を実証し、適正な籾数や収穫時期を把握できるよう力を尽くしています」。栽培技術を確立し、栽培マニュアルを策定するための実証研究は現在進行形。
家庭の食卓に必ずや新しい風を吹かせるであろう「富富富」の旅は、まさに始まったところだ。

富山県農業技術課 広域普及指導センター
副主幹普及指導員・農業革新支援専門員

髙橋 渉(たかはし・わたる)さん(写真右)

昭和62年より県農業技術センターにて水稲・大豆・大麦の栽培試験を担当。農水省 農業研究センター出向時は、作物の生育診断や生長モデルの研究にあたる。水稲の生産振興や技術指導にも情熱を傾ける、お米研究のベテラン。

富山県農林水産総合技術センター
農業研究所 栽培課 副主幹研究員

野村 幹雄(のむら・みきお)さん(写真左)

平成10年より県農業技術センターにて水稲・大豆・大麦の栽培試験を担当。その後、高岡農林振興センターでの普及指導や農研機構中央農業総合研究センター北陸研究拠点への出向を経て、平成23年、現在の農業研究所栽培課に着任。

適切な栽培管理を行うため、定期的にカラーチャートで診断を行っている。7月6日時点で栄養状況は良好だ。

図1:籾数と収量・食味の関係(イメージ)

籾数が多くなると収量は増える傾向があるが、逆に食味は緩やかに落ちる傾向がある。このため、収量と食味のバランスが大切だ。